水戸地方裁判所 平成10年(わ)650号 判決 1999年7月08日
主文
被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する。
被告人両名に対し、未決勾留日数中各三八〇日をそれぞれその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人両名は、
第一 (平成一〇年五月二七日付け起訴状関係)
共謀のうえ、
一 平成九年一月一七日ころの午前零時ころ、水戸市東原三丁目二番所在の国立水戸病院内駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車内からC子所有にかかるコート一着ほか八点(時価合計約六万円相当)を窃取し
二 同年二月一〇日午前三時一五分ころ、同市泉町《番地略》所在のファッションヘルス「甲野」店舗内において、D管理にかかる現金約一七万円ほか四点在中のホーム金庫一台(時価約三万円相当)を窃取し
第二 (平成一〇年三月三一日付け起訴状関係)
分離前相被告人E子と共謀のうえ、
一 多額の預貯金を有していたF子に睡眠薬等を服用させて昏酔させ、その所持する預貯金通帳及び印鑑等を盗取しようと企て、平成九年四月一〇日ころ、同市天王町《番地略》所在のG方において、前記F子(当時七一歳)に対し、睡眠薬ないし精神神経安定剤(以下、「睡眠薬等」という。)を日本酒に混入して服用させ、その薬効により同人を昏酔させ、同人所有の預貯金通帳五通及び印鑑二本等合計八点を盗取し、
二 右盗取にかかるF子名義の預金通帳及び印鑑を使用して預金払戻名下に人を欺いて金員を交付させようと企て、同日午前九時一〇分ころ、同市大工町一丁目二番四一号所在の水戸信用金庫大工町支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「390000」と記入したうえ、おなまえ欄に「F子」と冒書し、お届出印欄に「F」と刻した印鑑を冒捺するなどし、もって、F子作成名義の金額三九万円の普通預金払戻請求書一通を偽造したうえ、同支店係員H子に対し、右偽造にかかる普通預金払戻請求書が真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳とともに提出行使して現金三九万円の払戻しを請求し、右H子をしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金三九万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
第三 (平成一〇年四月二一日付け起訴状関係)
E子と共謀のうえ、前記第二の二と同様の方法で金員を交付させようと企て、
一 平成九年四月一五日午前一〇時一五分ころ、前記水戸信用金庫大工町支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「500000」と記入したうえ、おなまえ欄に「F子」と冒書し、お届出印欄に「F」と刻した印鑑を冒捺するなどし、もって、F子作成名義の金額五〇万円の普通預金払戻請求書一通を偽造したうえ、前記H子に対し、右偽造にかかる普通預金払戻請求書が真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳とともに提出行使して現金五〇万円の払戻しを請求し、右H子をしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金五〇万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
二 同月一六日午前一一時一六分ころ、前記水戸信用金庫大工町支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの普通預金払戻し請求書用紙の金額欄に「1000000」と記入したうえ、おなまえ欄に「F子」と冒書し、お届出印欄に「F」と刻した印鑑を冒捺するなどし、もって、F子作成名義の金額一〇〇万円の普通預金払戻請求書一通を偽造したうえ、前記H子に対し、右偽造にかかる普通預金払戻請求書が真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳とともに提出行使して現金一〇〇万円の払戻しを請求し、右H子らをしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金一〇〇万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
第四 (平成一〇年五月二五日付け起訴状関係)
E子と共謀のうえ、前同様の方法で金員を交付させようと企て、
一 平成九年四月二一日午前九時二二分ころ、前記水戸信用金庫大工町支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「765000」と記入したうえ、おなまえ欄に「F子」と冒書し、お届出印欄に「F」と刻した印鑑を冒捺するなどし、もって、F子作成名義の金額七六万五〇〇〇円の普通預金払戻請求書一通を偽造したうえ、同支店係員I子に対し、右偽造にかかる普通預金払戻請求書が真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳とともに提出行使して現金七六万五〇〇〇円の払戻しを請求し、右I子をしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金七六万五〇〇〇円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
二 同月二三日午前九時一四分ころ、同市泉町三丁目二番四号所在の株式会社東京三菱銀行水戸支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの払戻請求書(定期・通知・積立)用紙の金額欄に「1001412」と記入したうえ、おなまえ欄に「F子」と冒書し、お届出印欄に「F」と刻した印鑑を冒捺するなどし、もって、F子作成名義の金額一〇〇万一四一二円の払戻請求書(定期・通知・積立)一通を偽造したうえ、同支店係員J子に対し、右偽造にかかる払戻請求書(定期・通知・積立)が真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳とともに提出行使して元本一〇〇万一四一二円の定期預金の解約及びその元利金の払戻しを請求し、右J子らをしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金一〇〇万一七七五円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
三 同月三〇日午後一時一六分ころ、前記水戸信用金庫大工町支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの定期預金払戻請求書用紙及び普通預金払戻請求書用紙の各おなまえ欄にそれぞれ「F子」と冒書し、各そのお届出印欄にそれぞれ「F」と刻した印鑑を冒捺したうえ、情を知らない前記H子をして右定期預金払戻請求書用紙の金額欄に「3000000」、右普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「2000000」とそれぞれ記入させるなどし、もって、F子作成名義の金額三〇〇万円の定期預金払戻請求書及び金額二〇〇万円の普通預金払戻請求書各一通を偽造したうえ、右H子に対し、右偽造にかかる定期預金払戻請求書及び普通預金払戻請求書がいずれも真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳とともに順次提出行使してF子名義の元本三〇〇万円の定期預金の解約、同信用金庫にある同人名義の普通預金口座へのその元利金の振替え及び右口座からする右振替金の内金二〇〇万円の払戻しを請求し、右H子らをしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金二〇〇万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
第五 (平成一〇年九月一八日付け起訴状関係)
E子と共謀のうえ、前記盗取にかかるF子名義の預金通帳又は貯金通帳及び印鑑を利用して預貯金払戻名下に人を欺いて金員を交付させようと企て
一 平成九年五月七日午前一〇時一五分ころ、前記水戸信用金庫大工町支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの定期預金払戻請求書用紙二枚及び普通預金払戻請求書用紙一枚の各おなまえ欄にそれぞれ「F子」と冒書し、各そのお届出印欄にそれぞれ「F」と刻した印鑑を冒捺するなどしたうえ、右普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「9000000」と記入し、また、情を知らない前記H子をして右各定期預金払戻請求書用紙の金額欄にそれぞれ、「320000」、「10000000」と記入させ、もって、F子作成名義の金額三二万円及び金額一〇〇〇万円の定期預金払戻請求書各一通及び金額九〇〇万円の普通預金払戻請求書一通を偽造したうえ、右H子に対し、右偽造にかかる各定期預金払戻請求書及び普通預金払戻請求書がいずれも真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳とともに一括提出行使して、F子名義の元本三二万円及び元本一〇〇〇万円の各定期預金の解約、同信用金庫にある同人名義の普通預金口座へのその元利金の振替え及び右口座からする右振替金の内金九〇〇万円の払戻しを請求し、右H子らをしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金九〇〇万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
二 同月一五日午後零時四二分ころ、同市三の丸一丁目四番二九号所在の水戸中央郵便局において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同郵便局備付けの定額・定期貯金用郵便貯金払戻金受領証用紙のおなまえ欄に「F子」と冒書し、その名下に「F」と刻した印鑑を冒捺するなどし、もって、F子作成名義の定額・定期貯金用郵便貯金払戻受領証一通を偽造したうえ、同郵便局員に対し、右偽造にかかる定額・定期貯金用郵便貯金払戻金受領証が真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の貯金通帳とともに提出行使して定額貯金の払戻しを請求し、右をしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金三一三万三五一一円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
三 同年六月五日午後二時五三分ころ、前記水戸信用金庫大工町支店において、E子において、行使の目的をもって、ほしいままに、ボールペンを用い、同支店備付けの普通預金解約依頼書(兼普通預金出金伝票)用紙二枚及び普通預金払戻請求書用紙一枚の各おなまえ欄にそれぞれ「F子」と冒書し、各そのお届出印欄にそれぞれ「F」と刻した印鑑を冒捺するなどしたうえ、情を知らない前記I子をして右普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「1482916」と記入させるなどし、もって、F子作成名義の普通預金解約依頼書(兼普通預金出金伝票)二通及び金額一四八万二九一六円の普通預金払戻請求書一通を偽造したうえ、右I子に対し、右偽造にかかる各普通預金解約依頼書(兼普通預金出金伝票)及び普通預金払戻請求書がいずれも真正に作成されたもののように装い、これをF子名義の預金通帳三通とともに一括提出行使して普通預金の解約及び払戻の請求をし、右I子らをしてその旨誤信させ、よって、即時、同所において、同人から現金合計二一〇万九八一四円(普通預金解約にかかる分が三三万〇三九五円と二九万六五〇三円、普通預金払戻しにかかる分が一四八万二九一六円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ
第六 (平成一〇年六月一九日付け起訴状関係)
共謀のうえ、平成九年一二月二〇日夜、同市泉町三丁目六番一号付近路上において、酒に酔って通行中の酔客K(当時三九歳)を飲食店に誘い、睡眠薬等を服用させて昏酔させ、その所持金品を盗取しようと企て、そのころ、被告人A子において、右Kを同市泉町三丁目六番三号所在の「つぼ八水戸泉町店」店内に誘い込み、同日午後一一時ころから同日午後一一時二八分ころまでの間、同店内において、同被告人において、右Kに対し、あらかじめ用意した睡眠薬等を胃薬のように装って服用させ、その薬効により同人を昏酔させたうえ、同人を被告人B運転の普通乗用自動車に乗車させて、同所付近から同市栄町一丁目一〇番一〇号所在のレスカールマンション一階駐車場まで搬送し、同月二一日午前零時ころ、同所において、右K所有の現金約一万円、ステレオカセットプレイヤー一個ほか一四点在中のセカンドバッグ一個及びハーフコート一着を盗取し
第七 (平成一〇年九月二五日付け起訴状関係)
共謀のうえ、被告人A子がホテルに同伴したLに睡眠薬を服用させて昏酔させ、その所持金品を盗取しようと企て、平成一〇年一月一四日午前四時五〇分ころ、同市五軒町《番地略》所在のホテル「乙山」三一三号室において、同被告人において、右L(当時五七歳)に対し、あらかじめ用意した睡眠薬等を精力剤のように装って服用させ、その薬効により同人を昏酔させ、同人所有の現金三二万円を盗取し
第八 (平成一〇年三月六日付け及び同月八日付け起訴状関係)
共謀のうえ、被告人A子がホテルに同伴したMに睡眠薬を服用させて昏酔させ、その所持金品を盗取しようと企て、平成一〇年二月八日午前四時四八分ころから同日午前六時一六分ころまでの間、同市泉町《番地略》所在のホテル「丙川」二〇一号室において、同被告人において、右M(当時五七歳)に対し、あらかじめ用意した睡眠薬等をサイダーに混入して飲ませ、さらに右睡眠薬等を精力剤のように装って服用させて、その薬効により同人を昏酔させ、同人所有の現金約三〇〇〇円及びキャッシュカード二枚ほか五点を盗取し
第九 (平成一〇年一二月一八日付け起訴状関係)
共謀のうえ、被告人A子がホテルに同伴したNに、睡眠誘導剤ベンザリン及び精神神経安定剤レボトミン等を粉末にして混合した薬物を服用させて昏酔させ、その所持金員を盗取しようと企て、平成一〇年二月一三日午前零時四〇分ころ、同市天王町《番地略》所在のホテル「丁原」四〇七号室において、同被告人において、飲酒して酩酊状態にあった右N(当時五六歳)に対し、あらかじめ用意した右薬物を精力剤のように装って服用させ、その薬効により同人を昏酔させ、同人所有の現金約一万二〇〇〇円を盗取するとともに、そのころ、同所において、同人を酩酊状態下にベンザリン及びレボトミンを併用したことに基づく中枢神経抑制作用の増強により死亡させたものである。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
被告人両名の判示第一の各所為はいずれも、刑法六〇条、二三五条、判示第二の一、第六ないし第八の各所為はいずれも同法六〇条、二三九条、二三六条一項に、判示第二の二、第三の一、二、第四の一ないし三及び第五の一ないし三の各所為のうち、各有印私文書偽造の点はいずれも同法六〇条、一五九条一項に、各偽造有印私文書行使の点はいずれも同法六〇条、一六一条一項、一五九条一項に、各詐欺の点はいずれも同法六〇条、二四六条一項(第五の三は包括して)に、判示第九の所為は、同法六〇条、二四〇条後段にそれぞれ該当するところ、判示第二の二、第三の一、二、第四の一、二及び第五の二の各有印私文書偽造と各偽造有印私文書行使と各詐欺並びに判示第四の三の各有印私文書偽造と各偽造有印私文書行使と詐欺の間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので、いずれも同法五四条一項後段、一〇条により、それぞれ一罪として最も重い各詐欺罪の刑(ただし、短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)で、判示第五の一、三の各偽造有印私文書の一括行使は、一個の行為が数個の罪名に触れる場合であり、各有印私文書偽造と各偽造有印私文書行使と詐欺の間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので、いずれも同法五四条一項前段、後段、一〇条により、結局以上をいずれも一罪として最も重い各詐欺罪の刑(ただし、短期は偽造有印私文書偽造罪の刑のそれによる。)でそれぞれ処断することとし、被告人両名の判示第九の罪について、所定刑中いずれも無期懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるが、判示第九の罪につき無期懲役刑を選択したので、同法四六条二項本文により他の刑を科さないで、被告人両名をそれぞれ無期懲役に処し、同法二一条を適用して、被告人両名に対し、未決勾留日数中三八〇日をそれぞれその刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととする。
(量刑の事情)
一 被告人両名の経歴及び犯行に至る経緯等
被告人A子は、三歳のころ両親が離婚して祖父の下に預けられ、叔母であるE子に面倒をみてもらうなどして成育し、一九歳のころバセドー病のため甲状腺及び副甲状腺の切除手術を受け、以後継続的に投薬治療を受けていた。同被告人は、昭和五五年七月、Gと再婚して三児をもうけ、共働きをしながら生活していたが、昭和五九年ころ、Gが胃癌で手術を受けて仕事ができなくなったため、ホステスとして働くようになり、一時Gと別居したものの、その後は、再び夫婦でぱちんこ店で働くようになって、平成三年七月からは、水戸市天王町《番地略》所在の借家(以下「G方」という。)に、G、子供三名及びE子と住むようになった。被告人A子は、平成四年一月ころから仕事をしなくなり、平成五年九月からは、被告人A子及びGともに就労が困難である旨の医師の診断を得て、月額約三〇万円の生活保護費を受給するようになった。被告人A子は、継続的に甲状腺機能低下症の治療薬の処方を受けていたほか、不眠のため、精神安定剤や睡眠薬(睡眠導入剤あるいは睡眠誘導剤などとも呼ばれている。)の処方も受けるようになり、Gも、平成七年ころ、白血病と診断されて入退院を繰り返すようになり、また、てんかんの持病もあって、継続的にてんかん抑制剤や睡眠薬等の処方を受けていた。
次に、被告人Bは、三歳のころ両親が離婚し、以後後妻に育てられて中学校を卒業し、一時父のもとでペンキ屋の仕事をしたほか、クラブのボーイなどの仕事を転々としていたが、二四歳のころ結婚して子供をもうけたものの、昭和六一年ころには離婚し、平成六年ころから水戸市内のいわゆるピンクサロンで働くようになった。同被告人は、平成八年二月ころ、同店に採用面接にきた被告人A子と知り合って肉体関係をもつ間柄になり、同年九月ころから、同被告人には同居の夫Gがいることを知りながら、A子方で、Gに隠れて同被告人らと一緒に生活するようになり、同年一二月ころ職場を解雇されてからは、被告人A子らが受給する生活保護費等で生活をしていた。
被告人両名は、同居生活がGに知られないようにE子や被告人A子の子供たちに協力させるなどして注意を払っていたが、やがて、被告人A子において、被告人Bとの同居が発覚しないようにするため、自分やGが処方を受けていた睡眠薬等の錠剤を粉末状にして食事等に混入させる方法で同人に飲ませて眠らせるようになった。また、被告人両名は、被告人Bが職場を解雇された後は、仕事もせず、昼ころ起床しては週に二、三回の割合でぱちんこなどに出かけて時間をつぶすといった自堕落な生活を続けていたが、被告人A子とGに支給される生活保護費で被告人らを含めた七人が生活してゆくことは非常に苦しく、ぱちんこ等の遊興費にまわす余裕など到底ないような状態であった。
このような状況のもと、被告人両名は、遊興費欲しさに、共謀のうえ、車上ねらいないし事務所荒らしを敢行するようになって判示第一の各犯行に及び、また、被告人らと同居していた被告人A子の叔母と共謀して、被告人A子において被告人らの住居に招き入れたF子に、睡眠薬等を入れた日本酒を飲ませて昏酔させ、同人が所有する預貯金通帳や印鑑等を盗取したうえで、そのうちの預貯金通帳や印鑑等を使用して、多数回にわたり、同人名義の預貯金を騙し取る等の犯行に及び(判示第二ないし第五)、これらの犯行によって得た金銭も使い果たすや、遊興費等欲しさに、被告人両名共謀のうえで、飲食街において被告人A子において、男性が自分を誘ってくるのを待ち、その誘いに応じてホテル等へ同伴したうえ、胃薬や精力剤などと偽って睡眠薬等を服用させて昏酔させ、同人らが所有する現金等を盗取し、そのうち一名の被害者を右睡眠薬等の薬効等により死亡させるという各犯行に及んだ(判示第六ないし第九)。
二 特に考慮した事情
まず、判示第六ないし第九の各犯行は、被告人両名が共謀のうえで、被告人A子やGが医師の処方を受けて服用していた睡眠薬等の錠剤を、あらかじめ自宅で粉末にして準備したうえ、被告人A子においてこれを携行して水戸市大工町周辺の飲食街に赴き、深夜、街頭に立って、酔った男性が同被告人を誘うのを待ったうえ、同被告人においてその男性とホテルや居酒屋に入り、あらかじめ準備しておいた睡眠薬等を飲ませて昏酔させるという方法で金品を盗取し、うち一名を飲酒酩酊下での睡眠薬等の投与による中枢神経抑制作用の増強により死亡させたという事案である。被告人らは、判示第二ないし第五の犯行によって多額の金銭を入手してこれを湯水のごとく使い果たした挙げ句、受給している相当額の生活保護費だけでは足りず、遊興費等に窮すると、これらに充てるため、いとも安易に判示第六ないし第九の犯行を繰り返したもので、誠に浅薄で身勝手かつ利己的な犯行というほかなく、その動機、経緯には酌量の余地が全くない。また、各犯行の態様を見ると、判示第六の犯行は、被告人A子が男性とホテルに入ることを嫌った被告人Bにおいて、男性を居酒屋に誘い、そこで怪しまれることなく服用させるため、胃薬と偽って睡眠薬等を飲ませて所持金を奪うことを提案し、そのため、粉末状にした睡眠薬等を胃薬に混ぜて胃薬袋に入れ、これを未開封の胃薬とともに準備したうえ、被告人両名で前記大工町に赴いて声をかけてくる男性を待ち、被告人Bが目を付けた男性をねらうように被告人A子に指示し、A子において、被害者を居酒屋に誘い、かねてからの手はずどおり、一緒に飲酒した後、胃薬を見せて被害者を安心させたうえ、すきを見て睡眠薬等入りの胃薬にすり替えてこれを服用させ、被害者が昏酔する前に同人とともに店を出て、これを見た被告人Bにおいてその運転する自動車に被害者を乗せて、マンションの駐車場まで連れてゆき、昏酔した被害者から現金等を盗取して、同人をそのまま放置して逃走したというもの、判示第七の犯行は、被告人Bにおいて、罰金の納付命令が届いたことから、同じ手口で金銭を入手しようと考え、判示第六の被害者が死亡したことを知って犯行を控えていた被告人A子に対し、再度睡眠薬等を使った同様の手口の犯行を誘い、同被告人もこれに応じることとし、判示第六の犯行方法では、飲食店で睡眠薬等を飲ませた被害者を連れ出すのが難しかったため、被告人A子が男性をホテルに誘って睡眠薬等を飲ませることにし、被告人両名で前記大工町を徘徊して適当な男性を物色し、途中、被告人Bがいては男性が声をかけてこないということで同被告人が途中で帰り、その後、被告人A子において、自分を誘ってきた男性とともにホテルに入り、同所において、ビールに睡眠薬等を混入させて被害者に飲ませようとしたところ、同人が異状に気付いて飲むのをためらったため、さらに睡眠薬等を精力剤と偽って服用させたうえ、同人が昏酔状態に至ったことを確認して、同人から現金を盗取して、同人を放置したまま逃走したもの、判示第八の犯行も、同様に、睡眠薬等を準備して、被告人両名で前記大工町に赴き、途中被告人Bは帰ったものの、被告人A子において、声をかけてきた被害者とホテルに入り、サイダーの缶に睡眠薬等を混入させて同人に飲ませ、同被害者がすぐには眠らなかったため、さらに精力剤と偽って睡眠薬等を服用させ、被害者が昏酔したところで同人から現金等を盗取して、被害者をそのまま残して逃走したもの、判示第九の犯行は、被告人Bに同様の犯行を催促された被告人A子が、睡眠薬等を準備して被告人Bとともに前記大工町に赴き、被告人Bがいては男性が声をかけてこないとして、同被告人は先に帰り、その後、被告人A子において、誘ってきた被害者とホテルに入り、酒に酔っている被害者に精力剤と偽って睡眠薬等を飲ませて、同人を昏酔させたうえ、そのすきに同人から現金を盗取し、同人をそのまま放置して逃走したが、同人を、酩酊状態で飲んだ睡眠薬等による中枢神経抑制作用の増強により死亡させたものである。以上のとおり、これら一連の犯行は、被告人両名において、叔母のE子まで巻き込んで、被告人A子やGが処方を受けている睡眠薬等を準備するなど、周到に準備された計画的犯行であるばかりか、その態様は、いずれも酒に酔った被害者らに被告人A子をホテルに誘わせるなどして、被害者が被害にあったことを申告しにくい状況を積極的に作出したうえ、利用客の素性も分かりにくいうえに密室であるホテルの一室で隠密裡に敢行するなど、誠に巧妙かつ卑劣というほかない。とりわけ、被告人らが犯行に用いた睡眠薬等は、その摂取には医師の処方を厳守する必要があることはもちろんであるばかりか、これを酒類と併用すると、その薬効が増強されるなどして、摂取量によっては深い昏睡状態に陥って死亡することもあるなど、生命・身体に対する危険性が指摘されている薬品であって、これらの薬品を安易に入手する立場にあり、その効能を知り尽くしていた被告人らにおいて、いとも安易に、これを犯行の手段として用いたものであって、甚だ危険かつ悪質で言語道断の犯行といわなければならない。そして、判示第九の犯行においては、まさに右の危険が現実のものとなり、被害者が中枢神経抑制作用の増強により死亡するという、極めて重大な結果を惹起している。同被害者は、それまで消防士として社会のために尽力し、家庭でも良き夫であり父であったものであり、理由も分からず、睡眠薬等を服用させられた認識すらないまま、ホテルの一室に全裸で放置され、何の手当も受けることなく無惨にも尊い命を絶たれることとなったのであり、その無念は筆舌に尽くし難いものがあると認められ、かかる卑劣な犯行によって同被害者を失った遺族の衝撃、怒り、悲しみも察するに余りあるものがある。また、判示第八の被害者は、脱糞・尿失禁、縮瞳が見られる中枢神経麻痺の状態で病院に搬送され、翌九日の午後意識が清明になるまで、長時間、深昏睡の状態が持続し、幸い服薬後早期に発見され、適切な治療がなされたため一命はとりとめたものの、そうでなければ死亡する事態さえ起こり得たものであり、その余の被害者らも、昏酔させられたうえ、深夜マンションの駐車場やホテルの一室に放置されて生命の危険にさらされるなど(判示第六、第七の被害者は、睡眠薬等の投与との因果関係の存否は別として、結局死亡している。)、これらの被害者の受けた衝撃や憤りにも筆舌に尽くしがたいものがある。被告人らは、このように四名の被害者を昏酔させて生命の危険を生じさせ、うち一名に対しては、与えた睡眠薬等が原因で死亡させるという重大な結果を惹起しておきながら、被害者やその遺族らに対して何ら慰謝の措置は講じていないし、また、その見込みも全くないのであり、これらの者が被告人らに対する厳重処罰を求めているのも当然というべきである。被告人らは、判示第六の犯行後、その際の被害者が死亡していたことを新聞で知り、その死亡の原因が被告人A子が服用させた睡眠薬等のためであるかもしれないと思ったものの、被告人Bが納める罰金のための金員を工面するという動機から安易に判示第七の犯行に及んだのをはじめ、判示第八、第九の各犯行を繰り返したもので、被告人らには、人命に対する畏敬の念に欠ける心情が顕著に認められる。被告人A子は、いずれの犯行においても、被害者を誘惑し、手際よく事情を知らない被害者に睡眠薬等を服用させて、金品を盗取するという、犯行に必要不可欠な実行行為を担当し、また、右各犯行に用いた睡眠薬等を管理したうえ、犯行に用いるために粉末にする分量や種類を決め、右各犯行の謀議においても、同被告人が実行の最終的決断をしているのであり、その果たした役割が重大であることはいうまでもない。また、被告人Bは、同A子に対し、犯行に使用する睡眠薬等(錠剤)の砕き方を指示したほか、金品を奪う対象として年輩で酒に酔っている者をねらうように指示し、また、犯行の方法も、飲食店で睡眠薬等を飲ませて、昏酔したところを連れ出して金品を奪取することや、その方法では、飲食店から連れ出すことが難しいことから、ホテルに同伴しての犯行に切り替えると、ホテルに入ったらすぐに睡眠薬等を飲ませるようにといった指示を与え、また、右各犯行を決断するに際しては、同被告人の方から被告人A子に対して積極的に犯行をそそのかし、さらに右各犯行に際しても被告人A子を自己の運転する自動車に乗せて大工町まで出かけ、三ないし五メートルの距離をあけつつ被告人A子を見守るなどして同被告人が本件各犯行の実行に及ぶことを心理的にも物理的にも容易にしているのであって、犯意の形成から犯行に至るまでの全過程において欠くべからざる役割を果たしていることが明らかである。加えて、被告人らが判示第七の犯行に及んだ動機の一つには、被告人Bが罰金を支払う必要があったことがあり、判示第六の犯行では、被告人A子が居酒屋で睡眠薬等を飲ませて連れ出した被害者を、自分が運転する自動車に乗せて盗取場所まで運搬するなどの重要な役割を演じているのであり、実行行為のほとんどを被告人A子が担当しているとはいえ、被告人Bの果たした役割も、各犯行の遂行に当たって極めて重要なものであって、両被告人の刑責には径庭はないというべきである。
次に、判示第二の一の犯行は、被告人らが、たまたま知り合った七一歳になる独居女性のF子から金品を奪うため、親切を装って被告人らの住居に招き入れて宿泊させ、すきをみて同女の荷物を物色した結果、同女が多額の残高がある数通の預貯金通帳とその届出印などを所持しているのを認め、これらを用いて預貯金を下ろそうと企て、同女に睡眠薬等を飲ませて昏酔させた末、同女からこれらの預金通帳等を盗取した事案である。その動機は、被告人らが専ら遊興費等欲しさから敢行したものであって、一人暮らしの年輩の女性である被害者の立場を思いやる気配など全くうかがうことのできない、極めて狡猾かつ利己的なものであって、その動機、経緯には酌量の余地が全くない。被告人らは、平素から使用し、その薬効を熟知していた睡眠薬等を被害者に服用させ、同女を昏酔させて右通帳等を奪うことを計画し、あらかじめ錠剤をすりつぶして粉状にした睡眠薬等を用意してその来訪を待つなどの準備を調えて犯行に及んだもので、本件は、周到に準備された計画的犯行というべきである。また、犯行態様をみても、被告人らは、被害者が日本酒好きであったことから、同女に、睡眠薬等を燗にした日本酒に溶かして服用させ、その薬効により同女を昏酔させて右通帳等を奪ったもので、その手口は、卑劣にして大胆かつ巧妙であり、しかも、これらの睡眠薬等を飲酒と併用することの危険性は前記のとおりであり、甚だ危険かつ悪質といわなければならない。その結果、犯行当時七一歳であった被害者は、老後に備えて亡き夫の保険金等を蓄えた全財産といってもよい預貯金の通帳等を奪われたもので、その結果も重大である。
さらに、判示第二の二及び同第三ないし第五の各犯行は、被告人らが判示第二の一の犯行で奪った預金通帳等とその届出印を使用して、各金融機関で各払戻請求書等を偽造・行使したうえ現金を引き出したものであって、その経緯、動機には酌量の余地は全くない。被告人らは、不審に思われないように、預貯金の払戻しを受けるに当たって、これを複数回に分け、引き出す日の間隔を空け、公共料金の引き落としに使用されている預金口座から残高不足にならないように配慮し、一度に多額の現金を払い戻す際には、係員から尋ねられた場合に備えて、あらかじめその理由を考えて準備したうえ、F子と年格好がよく似たE子が各金融機関に赴いて預金等の払戻しを受けることとし、右通帳等とともに奪ったF子の国民健康保険被保険者証の記載等を参照して各払戻請求書等を偽造するなどしてこれらの犯行に及んだもので、極めて狡猾にして、用意周到な計画的犯行というほかない。各犯行態様は、E子が約二か月の間に九回にわたって各金融機関に赴いて、各払戻請求書等を偽造して通帳等とともに係員に提出し、その都度三九万円から九〇〇万円という多額の現金を引き出しているのであって、誠に大胆で悪質である。その結果、各金融機関から、合計約二〇〇〇万円を引き出しており、その被害額が大きいことはいうまでもなく、金融機関に対する信頼を揺るがしかねない犯行であり、各金融機関に対して与えた影響も無視できない。そして、被告人らは、判示第二の一の被害者を自宅に引き止め、被告人らが右預貯金の通帳等を奪ったことや、これを用いて預貯金を引き出していることが右被害者に気づかれないように、約一か月間にわたって、度々睡眠薬等を飲ませて、その効薬により昏睡して寝たきりの状態になった被害者を紙おむつをはかせたままで放置し、その間にその預貯金のほとんどすべてを引き出している。被害者は、その結果、床擦れができて二度も入院し、特に二度目は病状が重く、約半年間に及ぶ入院生活を余儀なくされたばかりでなく、財産のほとんどを失ったものであって、被害者の驚がく、悲嘆、老後への不安等には察するに余りあるものがあり、また、その精神的、身体的苦痛にも多大なものがあったと認められる。それにもかかわらず、被告人らは被害者に対する慰謝や被害弁償等の措置は全く講じておらず、また、その見込みも全くない。そして、被告人らは、詐取した現金について、約四〇回に及ぶ豪華な温泉旅行で数百万円を費消したほか、自動車の購入代金やぱちんこなどの遊興費に充てるなどして、そのほとんどをわずか八か月で費消しており、各犯行後の態度もよくない。被告人A子は、E子に預貯金を引き出す指示を与えるなど、中心的役割を果たしていることが明らかであり、また、被告人Bは、判示第二の一の犯行においては、被害者の荷物を物色するよう指示し、被害者がいったん出てゆくと、被害者が帰ってきたときは、被害者を帰さないようにして所持する金品を全部取り上げてしまおうなどと言い出し、さらに実行に際しても、被告人A子に対して、被害者に睡眠薬等を日本酒に混ぜて飲ませるよう指示するなど、その犯行において主導的役割を果たしているばかりか、判示第二の二、第三ないし第五の各犯行に際しては、預金を一度に下ろすと怪しまれるとして少しずつ下ろすことを提案するなど、被告人A子と同様に重要な役割を果たしているのであって、被告人らの刑責は重大である。
判示第一の各犯行は、仕事もせず、ぱちんこ等の浪費に明け暮れ、遊興費や生活費に困窮した被告人両名が、安易に金員を得るために敢行したもので、その動機に酌量の余地は全くない。被告人らは、ハンマー、バール等を携行し、盗品を運搬するため原動機付三輪車を用意したうえ、それぞれが実行役と見張り役を分担して犯行に及んだもので、計画的かつ大胆なものであり、悪質な犯行といわなければならない。被告人らは、これらの犯行によって窃取した金員は、すべて遊興費等に費消し、被害者らに対する被害弁償は全くしていない。
被告人らは、約一年間にわたって判示各犯行を繰り返し、生活保護費のほか、各犯行により得た金員で遊興にふけるなどしていたもので、被告人らの規範意識の鈍麻は甚だしいというべきであり、また、被告人らの判示第二ないし第五の各犯行を目の当たりにし、母親である被告人A子から、ホテルで睡眠薬等を飲ませてお金を盗んできたなどと犯行を打ち明けられるなど、約一年間にわたって犯罪と身近に接する環境にさらされてきた、同居の被告人A子の子供たちに与えた悪影響も懸念されるところである。以上のとおり、被告人らは、医師の処方が必要な睡眠薬等を手にすることができる立場を悪用して、まず、被告人Bが同居していることをGに発覚しないように、睡眠薬等を食事等に混ぜて投与したのをはじめ、判示第二の一の被害者に対しては、これを犯行の手段としたほか、同女の預貯金を同女に気づかれずに引き出すためには、同女を自宅に引き止める必要があるとして、継続的に睡眠薬等を服用させて昏睡状態を続けさせ、その間、同女は重篤な床擦れを起こして入院治療を余儀なくさせるまでに至っており、その後も、同女に対する犯行に味をしめ、同様の手口で金品を奪い取ることができそうな老人二人に目を付けて自宅に誘ったうえ睡眠薬等を飲ませたことがあり、挙げ句の果てには、判示第六ないし第九の犯行で、酔余の男性に睡眠薬等を飲ませるという、甚だ危険な手段に訴えたうえ、ついに一命を奪うに至ったものであって、被告人らのこのような睡眠薬等に対する無知・無理解、何のちゅうちょもなくこれを悪用するという行動には慄然とするものがあり、睡眠薬等を悪用したこれらの犯行の背後には、被告人らのこのような常軌を逸した根深い人格態度があることは否定し難いところである。そして、近時、この種の睡眠薬等を使用した凶悪犯罪が続発しており、これらの薬品が比較的容易に入手することができることから、その模倣も懸念されるところであり、一般予防の見地から、同種犯罪を禁あつするためにも被告人両名に対しては、厳しい態度をもって臨むほかない。
一方、被告人A子は、三歳のころに両親が離婚して祖父の下に預けられ、叔母であるE子に面倒をみてもらって成長するなど、両親の庇護の下で成長する機会を持てなかったこと、一九歳のころバセドー病の治療のため甲状腺及び副甲状腺の切除手術を受け、甲状腺機能低下症の後遺症を負い、以後継続的に投薬治療を必要とするようになっていたこと、夫であるGが胃癌になって職を失い、さらに平成七年には白血病と診断されて入退院を繰り返すようになるなど、その境遇には同情すべき点もあること、被告人Bは、両親が幼少のころ離婚するなどして、その情愛を十分に受ける機会のないまま生育するなど、その生い立ちには不遇な面もなくはないこと、被告人両名は、捜査段階及び当公判廷を通じて一貫してすべての事実関係を素直に認め、自己の犯した大罪に対する反省の態度を示していること、被告人A子には前科がなく、被告人Bには、道路交通法違反の罪で罰金刑に処せられたほかには前科がないことなどの被告人らに有利な事情も認められる。
そこで、以上の事情を総合考慮して、被告人両名に対してそれぞれ無期懲役に処することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松尾昭一 裁判官 鈴木秀行 裁判官 日野浩一郎)